栗林書房 栗林秀一 地元で90年、地域で原点回帰 昔ながらの本屋さんへ
栗林書房 栗林秀一 地元で90年、地域で原点回帰 昔ながらの本屋さんへ 

90年の歴史を振り返って

90年の歴史を振り返って 栗林書房

1932年5月創業、くしくも再移転オープンがこの5月。

祖父は北海道より、ほぼ一文無しで大阪にたどり着き、「古本屋」から始まったのが栗林書房の始まりです。

先月、移転で事務所も引っ越したので過去の書類整理をしていたところ、当時の白黒写真や当社のマニュアルなど、なかなか貴重なものが数多く発見されました。

写真には、もう考えられないくらいごった返している店内のお客様、私が生まれる前にいらっしゃった従業員の方の写真の数々・・・。

この「小阪」という地で、栗林書房は数えきれない方々から支えられてきたからこそ今があります。
これこそが何物にも代えがたい栗林書房の財産だと言えます。

従業員とお客様が紡いできたこの栗林書房の歴史をこれからも継続させていくことが、残されたもの、今を生きる我々の使命かと思います。

まずは100年を目指して、1日1日を少しでも前進できるよう頑張りたいですね。

 

新店舗への移転について

レッド店を閉店すると決断したのが昨年の8月。
描いていた方向性は

  • 外商(法人、学校関係の仕事)メインに切り替え
  • 旧文庫店(参考書を扱っていた場所)に店舗機能を残す
  • 旧本店の賃貸収入は継続して得る

新店舗への移転について 栗林書房

1月閉店後、22日に大幅縮小で移転再開したところ、この狭いスペースにもお客様は来て下さる。

「しゃあないな」「がんばりや」「狭すぎる」など、狭い分、お客様の声が様々な形でダイレクトに聞こえてくるんですよ。
心無い声もありますが、ホントなんで仕方がない。

でも共通しているのは「買ってくださる」ということ。
それだけ「手に取って」購入できる場所がないからだと思います。
一歩入って、何も言わずに出ていく人もたくさんいらっしゃいましたから、それからしたら有難いものです。

「外商メインと割り切ったつもり」それはこっちの都合であって、従来の店舗としてはやはり機能してないよな、とモヤモヤした感は否めませんでした。

そこから、「もう少し広くて、駅近くで、家賃安め」なところないか?先立つ資金もままならないのに検索したり歩いたり。
当たり前ですが、そんな簡単にあったらみんな借りてますよね(笑)

そうした中、賃貸収入を得ている旧本店の1Fの退店の申し出がありました。
当然、退店後は1階部分の賃貸収入がなくなり、3つ目の「賃貸収入を得る」計画が崩れます。

もう、ここしかない

賃貸収入はなくなりますが、幸い屋上には看板が残っている。
何より自社物件でお客様にも旧文庫店でやりつづけるより、少しは「本を選べる」空間が提供できる。
お客様にとっても我々にとってもいいことなんじゃないか、ということで「再移転」を決意した次第です。
レッド店より小さいことだけはご容赦願うしかないですが。

まさに原点回帰、古くからご存じのお客様からは「ここに戻ってきてんな」とお声がけいただいたりしております。

日々、感謝を忘れず、従業員みんなで頑張ってやっていきますのでどうぞご愛顧のほど宜しくお願いいたします。

 

自店を含めた本屋の現状

昔の記事、それこそ私が生まれる前から「活字離れ」という言葉が踊っていましたが、それが可愛らしいくらいな現状です。
もうかれこれ20年以上、業界全体の売上が下がっているわけですから。

「Amazonができたから」「コンビニに雑誌をとられた」とかそこに原因がゼロとは言いませんが、じゃあ「本だけは本屋で買ってね」って通るわけがないですよね。

さらに言えば、本を買う、これ自体が減っているのです。
もう業界紙とかの統計なんて見ていられません。

自店を含めた本屋の現状 栗林書房

昔、妻に言われた言葉ですが

暗い暗いというよりも、進んで明かりをつけましょう

結構、この言葉が好きで。

私の知っている書店さんには、「斜陽産業やからこその面白みがある」とかいう若者がいたり、地域のお客様を新規店の商品棚詰めのイベントにしてしまう方とかがいたり、みんながみんな共倒れではないのですよ。
マイナス基調の業界のなかにもプラスにしている人たちが確実にいて、尊敬していますし、おおいに励まされています。

本来そうあるべきだと思います。

自分でできる限りの準備をして、やったもののダメだったというのもあるでしょうが、やらなかったことの後悔にならないように、私もこの知り合いの書店さんたちを見習って、必ずやれることはある、そう信じて、愚痴ばかり言って何もやらずに業界の衰退に埋もれていうことだけは避けたいですね。

 

昔ながらの本屋さんとしてのこだわり

最近、「町の本屋さん」とか「昔ながらの本屋さん」とかいう表現が増えました。
「書店」ではない。「街」でもない。
自分の中では、100坪とか、1000坪、2000坪あるのが企業体としての書店かなと思ってます。

昔ながらの本屋さんとしてのこだわり 栗林書房

じゃあ、町の本屋さんってなんなの?

私見にはなりますが

その地域の方々に、本や雑誌の発売日にそれを待っているような方々にお渡しできる店
当日お渡しできなくとも、確実に渡せるようにできる店

これが目指す「普通の本屋」かな、と思っています。

店主のこだわるジャンルに限定された 雑誌のないセレクト書店やカフェの併設、最近のシェア型(棚を貸す)書店が最近のトレンドかもしれませんが、実際、地域の方々が望む書店はそうではなく、まず何より「お客様ありき」だと考えます。

もちろん、これが都心部、人口の多いところ、書店が周辺にいくつかある、なら話は別です。
私も正直、そういうとがった店が眩しく感じる時期がありました。

「普通の本屋」が「無策の本屋」に思えた時期が

 

しかし、東大阪でも書店の数はもはや少ない。
まず必要なのは、普通の本屋であり梅田や難波に出ていかずとも欲しい本が入手できる。
ネットなどが使いこなせない方々はリアルの本屋で現物を見て購入できる、そういうところだと思います。

西村京太郎ないの?とか佐伯泰英ないの?とか今なら「成瀬がなんちゃら?ないの?」
一例ですが、これがまず地域の声です。

専門書までは、さすがに置けませんが、そこは専門書店・大書店にお任せしたいと思います。
うちはその本が好きになる入口を担うことができればいいなと思います。

だからこそ、雑誌から、赤ちゃんの絵本から、コミック、参考書、文芸、人文、実用とある程度バランスを整えてコーナーを割り振っています。

その辺をおさえた上で、私も少しは(全体の2割から3割)色を出したいとは思いますが、お客様の要望を吸い上げつつ、表現が古いですがラジオのチューニングを合わせるように、少しずつ品揃えを調整し、お客様と共に栗林書房を再構築していきたいと考えてます。

栗林書房の色

本を読むことのすばらしさ

素晴らしいのは間違いないですし、これに早く早ければ早いほどいいですよ。何が素晴らしいかって、「世界が広がる」これに尽きます。

一番最初に出会う本っておそらく、赤ちゃん向けの絵本かと思うのです。

読んでもらって、面白い → もっと読んで → 他のも読んで → 自分で選ぶ → 自分で買う。これが理想のパターンです。
不思議なのが、本が好き、読む、抵抗がない子は言葉の表現が豊かなんですよ。読んでいる本の描写や心情の機微などから、自然に身につくんですよね。

文章を読んで理解する能力「読解力」が全然違います。だから「国語」、とくに現代文は勉強しなくても点が取れる子が多い。

英語にしても算数にしてもすべての基本は文章を理解することから始まるので、その観点からみても読むだけで様々な世界を知ることができる「本」は素晴らしい! と私は思います。

本を読むことのすばらしさ 栗林書房

ここまで言いきるのは、私自身が気づいたのが残念ながら大学生になってからなんです。

時間ができて、自分で興味が湧いた文庫本を手に取った。
それがめちゃくちゃ面白くて。やっと上記のパターンに入りました。

自発的に動くと、吸収するスピードが格段に上がりますし、読むスピードも上がるから、ますます読まない人と読む人の差ができてしまう。
だからこそ、早く知ってほしいですね。

残念なのが、ご家族とかで来られて子供さんが自発的に興味を示しているのに、それではなくて「それじゃなくてこっちにしたら」と、結局親御さんが読んでほしい本になっちゃうことってまあまああるんですよ。

「読まされる」本は、だいたい面白くないんですよね。
興味を示しているままに、読ませてあげてほしい。(将来への投資と思って 笑)
読むのが楽しくなって、習慣ができたら後は勝手に読みます。

ある方から
「本はあなたを導いてくれる。活かしてくれる。迷ったときに一筋の光を照らしてくれる。そういうものだから、絶対無くしてはいけないし、素晴らしい仕事をしてるんだよ」
と言われましたが、本当にその通りだと思います。

 

地域への想い

地域への想い 栗林書房

生まれてこのかた、この「東大阪」という地を離れて暮らしたことがないのです。
しかも本屋しか経験したことがない。
バイトから家の手伝い、そのまま会社へ。
私がここまで生きてこられたのは「本」があったからこそです。

地域の方が当店で本を買って下さったから、今があります。
だから、「本に生かされてきた」というのは常に根底にあります。

マスクド東大阪さんのようにプロレスを通して地域貢献される方、美味しい食事で食べた人を笑顔にすることで貢献される方、様々な「生かされ方」があろうかと思います。

だからこそ私は「本」を通して、ちょっと大げさかもしれませんが「知」のインフラとして、この小阪ひいては東大阪に貢献したい。
地域に「本屋」が存在すること自体が地域貢献になっているんじゃないかな? と思っています。

駅前に本屋があるって町としていい感じ、しませんか?
それでたまに作家さんとかも来てくださって、話を聞くことができるとか尚更。

「栗林があったから、本を読む習慣ができた、本が好きになった」とかなんか、東大阪は本を読む人が多い、とか「本の町、東大阪」とかなったら最高ですね。

 

これから本屋として進めていきたいこと

まずは「作家さんから直接、お話や作品に対する思い、考えが聞ける場を設ける」ことからやりたいと考えています。

これから本屋として進めていきたいこと 栗林書房

レッド小阪店は閉店しましたが、旧本店に店舗機能は移り、旧文庫店を今後はレンタルスペース、当店においてはイベントスペースとして活用していきます。
もちろん「本を提供する」ことが一番大事なのですが、新たな地域とのつながりを加えることができるようになりました。

当店は作家さんなどをお招きする、子供さんへの絵本読み聞かせなどを考えております。
それだけではなく駅前の認知しやすい場所を活かして、地域の方にもご利用いただける「レンタルスペース」としても活用していきたいと思っています。

会議室での利用であったり、展示会であったり。
また一緒に出来そうな内容なら一緒に行ったりと可能性は色々あると感じています。

色々やることが地域にとっても活性化になりますし、当店の認知度向上にもなり、ひいては町としての価値向上につながればうれしいですね。


2024年6月 栗林書房本店にて
協力・聞き手:東大阪バーチャルシティ